遺書(ブログ)

台湾の至宝を「預かっている」ことを忘れていない。

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昨日の試合で清宮幸太郎がホームランを打った。
弾道は高いのに滞空時間は短い。まさしく大砲のような一発だった。UGKこと近藤祐司のつけたボーカル(実況)も最高だった。

清宮のこの最高のプレゼントが嬉しすぎて、おれはしばらくフリーズしてしまった。体感5分くらい。
昨日はおれの誕生日だった。

さて、この試合ではもう一つ嬉しいシーンがあった。
3回裏に王柏融が放った1ヶ月半ぶりの安打である。高めのストレートを完璧にとらえ右中間を真っ二つに割る見事なツーベースだった。清宮と同じく、いつも祈るような気持ちで打席を見守っていたおれも「うおっしゃー!」と声が出た。

王柏融本人もようやく出た長打に相当ホッとしたんだろう。二塁上で頬を緩め、ガッツポーズが飛び出す。しかしすぐ次の瞬間、その感情を打ち消すかのように両拳を引っ込め、厳しい表情へ戻していた。

「俺はこんなことで喜んでいるわけにはいかない」。そんなつぶやきが聞こえてくるようだった。

今年の王柏融は開幕からずっと苦しんでいた。
ストレートには振り遅れる、外角に逃げていく変化球には素振りのような力ない空振り。バットにボールが当たっても、力負けした内野ゴロ。たまに芯を捉えても野手の正面……なんてアンラッキーに見舞われたりもした。
7月下旬に二軍落ちするまでの1ヶ月超の成績は31打数でたったの3安打。打率.097。

王柏融には比較的好意的だったハムファンも焦れに焦れた。
「二軍に落とせ」「別の若手出した方がまだマシ」程度ならまだいい。
「ハズレ外国人」「今からでも3Aでくすぶっているパワーヒッターを探せ」「台湾に帰ってもらえ」といった“大王不要論”まで飛び出していた。

わざわざ鼻を膨らませてSNSに投稿するのはどうかと思うが、不安に思うのも、まあ無理もない。

クリンナップが作ったチャンスを何度もつぶした。「さあここから!」という場面で、力なく凡退して、せっかくの反撃ムードを消し去ることも少なくなかった。
期待度は、「ここで打ってくれ!」から「打ってくれるといいな」となり、「たぶん打てないだろうな……」と最低レベルに引き下がっても、案の定打てなかった。

さらにいえば「外国人枠」という問題もある。
外国人枠は”助っ人枠”だ。チームが自前で作った戦力に、さらなる厚みを増すために「国外選手を4人まで補強していい」と定められているNPB独自のルールだ。
この4枠を使っていかに戦力を底上げできるか。これがシーズンの戦い方を大きく左右する。数シーズンを使って成長させる日本人選手とは存在意義が違う。「今シーズン」活躍しなければいけないのが「助っ人」だ。そんな大切な1枠を圧迫している。

きわめてドライに、こうした「概略」の上っ面だけをなぞれば、打率1割の外国人助っ人は「助っ人なんかじゃなくお荷物」と思ってしまう人もいるとは思う。

理屈はわかる。「ハズレ外国人」と言いたい気持ちも理解はできる。しかしおれは、「台湾に帰れ」とは決して思えないのだ。「そんなことは絶対にしてはいけない」と感じる。王柏融を普通の”助っ人外国人”の1人と見ていいのだろうか。

個人的にこう思う背景には、2018年暮れに台湾本国で行われた王柏融のファイターズ入団会見がある。
王柏融を思うとき、この会見の冒頭、栗山監督が台湾の野球ファンに向けたこの言葉が必ず脳裏によぎるのだ。

「(王柏融選手を)連れて行ってしまいます。本当にすみません」

この言葉を思い浮かべると、今でも目頭が熱くなる。

日本プロ野球を望む王柏融と、台湾最強打者を手に入れるファイターズ。このめでたい席で、栗山監督は、台湾の宝物を「連れて行ってしまう」と表現し、「すみません」と謝罪した。
これは、前年に日本の至宝・大谷翔平を送り出した栗山監督だからこそ出た言葉だと思う。

台湾の野球ファンがどれだけ王柏融を大切にしていたか。
宝物が海を渡ってしまうことを、ファンがどれだけ無念に思っているか。
本当は辛いのに、どれだけのファンが唇を噛みしめて、笑顔を作って、無理やり「日本でも頑張れ」と声を絞り出し、明るく手を振っているのか。

まずはこの気持ちに寄り添って、栗山監督は、いの一番に「謝罪」することを選んだ。なんだか、大谷翔平をメジャーに「連れていかれた」おれの無念も同時に浄化されていくような気がした。

実際にこの言葉に救われた台湾ファンもたくさんいたはずだ。
「我らの大王はファイターズに任せたぞ!」
王柏融が台湾で伝説の打者になるという約束された未来を飲み込んで、日本、そしてその先にあるメジャーでの成功へと夢を転換させた。
とても素晴らしいスピーチだった。この日の栗山監督を本当に誇りに思う。「おもしれー選手が取れたぜ」とただヘラヘラしていた当時のエンゼルス監督とは大違いだ(主観)。

この一連を思うと、いくら王柏融が大事な場面で凡退しようとも、「ハズレ外国人」「台湾へ帰れ」なんてとても思えない。理屈抜きの感情論だということは承知している。それでも、むしろ「活躍させてあげられずに本当に申し訳ない」と思ってしまう。

いちファンのおれなんぞが謝っても意味がないのはわかっている。しかしファイターズも、少なくとも栗山監督はきっとそう感じているはずだ。「絶対に大成させる」と、野球の神に誓っている。

もちろん、現在のところその期待に応えているとはいえない王柏融にもマズイ部分はある。昨年の成績も含めて、日本ファンは台湾の至宝の片鱗をまだ見ていない。理由はわからない。日本の野球に慣れていない? 日本の気候? 日本に来てもう1年半だ。そんなものなら克服するのは時間の問題だ。
そもそも一軍のレベルじゃない? 二軍弁慶? 台湾野球のレベルが低い? そんなはずはない。2017年のWBC壮行試合では、日本のエース格として先発した則本昂大のスライダーをバックスクリーンにぶち込んだだけでなく、名だたる日本代表投手を相手に3打数3安打1犠飛1四球3打点と大暴れした。絶好調だったということもあろうが、あの日の王柏融はすでに完成した怪物に見えた。大興奮しながら「こんな奴が日本に来たら……」と震え上がったし、日本での大活躍を夢想した。

あれから2年後、それが現実になっている。
しかもだ。信じられないことに、おれが熱狂的に応援している日本ハムファイターズのユニホームを着ている。背中には中心打者の証「3」番。
これは「台湾の至宝を必ず日本の大打者にする」という球団の決意の表れであり、あらためて「王柏融のポテンシャルはこんなもんじゃない」と確信しているということを示している。確信しているからには、これからもファイターズは王柏融にこだわり、ある程度は優先して使っていくはずだ。

王柏融は普通の”助っ人外国人”じゃない。台湾から預かっている”宝物”だ。球団はそれだけの覚悟を持って、台湾の大切な大王をチームに招いた。球団も「できませんでした」と返すわけにはいかないし、王柏融自身も「無理でした」で帰れない。今は真っ暗なトンネルの中にいても(出かけ?)、この義務の連鎖によって、ポテンシャルは必ず開花すると信じる。

さて、万が一ここまで読んでくれた台湾のファンがいたら、最後に聞いてほしい。

ファイターズは
台湾の至宝を「預かっている」ことを忘れていない。
大王の未来を「任されている」ことを忘れていない。
王柏融を「日本で大成させる」約束を忘れていない。

ただのいちファンが言っても説得力はないかもしれないが、おれの認識する限り、ここ10年のファイターズはそういう球団だ。安心してほしい

ただし、調子が下がれば今後も試合に出られないこともあるし、二軍に落とされることもある。優勝を第一に目指しているから当然だ。そして王柏融が調子を落とすたびに、一部の過激なファンからは心無い野次が飛び続けると思う。
「台湾に帰れ」「二軍でやりなおせ」「自動アウト」――預かり受けておいて恥ずかしい言葉だが、こんなものは排泄物だ。排泄物はどうしても出てしまうものだから無視してほしい。調子が戻ればすぐにひっくり返る。彼らもファンだから、本当は活躍してほしいと願っている。ただ、これだけは知っておいてほしいファイターズファンの多くは王柏融に大いに期待し、則本から衝撃ホームランを放ったあの怪物が甦ることを夢見ている。

そして王柏融の打席では、今後も変わらず応援してほしい
「絶対打て」「打てるぞ」「大王!決めてくれ」「お前は無敵だ!」と念を送ってほしい。大王が復活するには台湾の皆さんの力が必要だ。その想いは必ず大王に届き、必ず本来の力を取り戻す。本当は台湾野球のレベルは決して低くないことを証明してくれる。台湾の大王は、きっと日本の大王になれる。

その日が来るまでは、球団もファンも絶対に見放したりしない。
これからも「大王が君臨するファイターズ」をチームごと応援してほしい。

そして最後に、オール日本語ですみません。

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