遺書(ブログ)

「この瞬間から敵だ。移籍を後悔させてやる!」

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昨日、近藤健介のホークス移籍が正式に発表された。ついにこの瞬間が訪れてしまった。FA宣言して約1ヶ月。長かった。残念だ。悲しい。昨夜は背番号8のユニホームを着ながらしこたま酒を飲んだ。

「近藤は最終的には残留してくれるに決まっている」と、ここまで無理やり思考を止めて念じ続けてきたが、ソフトバンクの桁外れな剛腕には敵わなかった。

7年50億。近藤ほどの実力を持ったプロ野球選手ならば、そりゃあ中身がおれだったとしても福岡暮らしを決断する。

もちろん決め手は金額だけじゃないだろうが、この金額だけでも十分説得力がある。これほどの圧倒的な数字の前では、「チーム愛」やら「監督手形」やら「優勝するための補強」なんて言葉にすがっていた自分が幼稚に思えてくる。甘い。映画「ゴッドファーザー」風にいうならホークスは「断れないオファーを出した」のだ。ホークスはビジネスで圧倒した。

この規模であればもう、いっそのことメジャーに連れていかれたと思うことにしよう。それなら慣れてる。

ダルビッシュ、大谷翔平、有原航平。移籍が決まるたび、「おめでとう!」なんてクラッカーを鳴らしながら送り出した。個人的には「メジャーがそこまでめでたいか」と若干首をひねっていたが、今回はそれでいこう。

コンスケおめでとう! 野球人として一段高いステージに挑戦。カッコいいぞ。コンスケはハムが育てた。どこに行っても応援してるぞ! 念願の首位打者獲れ!

……ってなるかあ!

さすがに無理があった。なぜか。近藤が移籍するのはメジャーじゃない。「一段高いステージ」でもないパ・リーグだ。同リーグの敵チームとなれば、向こうの打席から背番号3を背負って牙をむいてくるのだ。

恐ろしい。いや、恐ろしいより前に切ないのだ。

近藤はファイターズに入団して11年。2012年のリーグ優勝時はまだ若く、2016年の日本一のときは「主役」という成績は残せなかったけれど、次年以降、2022年現在も続く”暗黒時代”は「孤高の天才バッター」としてファイターズファンの支えになってくれた。

2017年は怪我で規定には届かなかったものの「4割打者の怪物」へクラスチェンジした。以降はコンスタントに規定打席に立ち、3割を打ちながら出塁率は5年連続4割超え。勝てないファイターズは馬鹿にされたとしても、近藤は全野球ファンから尊敬された。昨年のノンテンダーで主力がバタバタと抜けてからは、ファイターズの唯一といっていい誇りだった。

ファイターズファンは11年という時間をかけて、ドラフト下位の高校生捕手から、今やプロ野球界全体をにぎわす大打者に成長していく様を見続けてきた。応援すれば必ず応えてくれる。孝行息子のような存在だった。

「いーや、この瞬間から敵だ。移籍を後悔させてやる!」

……などと口先では決意表明はできても、本心はそんなにガラッと切り替えられるわけがない。近藤は1ヶ月かけて「ファイターズ愛」に区切りをつけていると思うが、ファイターズファンは「近藤愛」を簡単には捨てられない。

そんなアンバランスな状態で敵になる。これまで「打ってくれ……打ってくれ……」と祈るように見つめていた近藤の打席を、「打つな……打つな……」と呪わなければならない。プロ野球はそういうものだが、改めてこれが切ない。

一方的に振られた元カノに、必要以上に冷たくあしらわれるあの感じ。……というと一気に陳腐になるが、経験則だけで語るとこれが一番しっくりきてしまう。お恥ずかしい。

別れてもまだバイト先にいて、こちらはまだ未練があるから丁寧に接しようと語りかけるも完全無視。

こうして文章にすると笑ってしまうかもしれないが、当時のマッキー青年にとっては心臓が持っていかれるほど辛い時間だった。

話を戻すが、近藤の打席ではしばらくそんな感じなんだろうと思うと今から辛い。ホークス戦では心臓を持っていかれる思いで「打つな」「凡退しろ」と呪っているんだろうか。いや、たまには「この場面なら打っちゃってもいいよ」などと言ってるかもしれない。縦縞の背番号3を見つめながら、サヨナラホームランを打ってピョンピョン飛び跳ねる近藤の想い出シーンを紙芝居のように思い浮かべているかもしれない。切ない。

ただ同時に、この感覚が永遠に続くわけじゃないというのも経験則的に知っている。古くは西崎も小笠原も、移籍半年ほどしたら「他球団の選手」に見えた記憶がある(白井一幸のオリックス移籍は許さない)。近年ではロッテ岡大海は完全に天敵だし、中田も西川も大田に関しても気づけば未練は消えている。

これまた切ない話ではあるが、同じようにきっと近藤も「憎っくきホークスの選手」になっていく。さらに切ないことに、背景には大勢のホークスファンが愛情をこめて見守っている。もうファイターズファンであるおれの出る幕はない。(関係ないが、件の元カノに彼氏ができたと聞いた時は、苦しかったけど踏ん切りがついた)

7年は長い。計算すると2000安打もホークスで達成できると思う。こう言っては何だが、おそらく近藤は名球会の資格を背負ってホークスの選手として引退するだろう。現実を直視すれば、これで近藤は引退後も含めて未来永劫「ホークスの近藤」となることがほぼ確定したといっても過言じゃない。ファイターズはただの「経歴」になった。

未来永劫ファイターズファンのおれにできることは、踏ん切りをつけることしかない。そして、今いるメンバーで、打倒ホークスを見届けること。優勝すること。日本一になること。ドラマ的にはむしろ熱い展開じゃないか。と無理やり奮い立たせてみる。

「この瞬間から敵だ」、とはさすがにまだならないが、一年後には絶対に移籍を後悔させてやる。

マツゴー、近藤に首位打者なんか絶対獲らせるなよ。

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