遺書(ブログ)

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ジャンル SF / スリラー / ドラマ
製作国 イギリス=フランス
製作年 2024
公開年月日 2025/5/16
上映時間 142分
鑑賞 TOHOシネマズ川崎(前夜祭)

デミ・ムーアほどの女優がここまでやる必要があったか

なんと原作は藤子不二雄A

というのはもちろん嘘だけど、「笑ゥせぇるすまん」に同じ話、絶対あったよね。有識者に「実はこれ、『笑ゥ~』のリメイクなんだよ」と言われれば信じちゃう。

何が言いたいかというと、ストーリー自体は事前情報から誰もが想像できる”それ”以上でも”それ”以下でもない。1行で言える。

いわゆる「若返り薬」を手に入れて、ついつい使いすぎちゃって大変なことになる話。

ほら、まんま藤子不二雄Aでしょ。A先生を知らない若い人にとっては「世にも奇妙な物語」の方が馴染み深いか。あのドラマにも同じ話、絶対あったよね。

ストーリー展開のみでいえば、いっさい驚きのない伝統スタイルだった。そうそう。最後に主人公は「ドーン!」と酷い目に遭うやつ。軽いネタバレ? そうかもしれないけど、この作品においてはストーリーなんて全く重要じゃない。保証する。そんなことよりも、

「ハリウッド版『笑ゥせぇるすまん』って、こんなことになっちゃうのか!」という驚きがすごかった。

まずは、A先生でいうところの「若返り薬」のシステム。もちろん漫画みたいに口から錠剤を飲んで、ポヨポヨポヨーンとピンクの煙に包まれて若返るわけじゃない。あんなものを注射してあんなことになって、あんな風にああなる。使用中は厳しいルールがあって、あれをしないとあんなことになる。でもあれをしすぎると、ドーン!ラストはまさしく阿鼻叫喚。

これがね、想像を絶するキモ……斬新さ。あんなもの(描写?)、A先生でもタモリでも考え付かないでしょう。タモさんは関係なかった。

監督は絶対に変態だな!と確信して調べたら、なんと女性監督(コラリー・ファルジャ)だった。しかも代表作が、美女スパコロものの隠れた名作「REVENGE リベンジ」(美女スパコロマニアなので当然観た)だったとは。確かにあれもなかなか変態だった。納得。

あとは、女性の「衰えゆく美」に対する切ない心情の、徹底的な描きこみ。多かれ少なかれ、誰にでもある普遍的な悩みなんだろうけど、特にこれまで「可愛い、美人、素敵」と、まるで、それだけが価値であるかのように扱われ続けてきた主人公(デミ・ムーア)にとっては、想像を絶する切なさ、空虚感、焦燥感だっただろう。

あの場面は泣いたな。地味だけど、お出かけ前の化粧がいつまでたっても決まらないシーン。普段なら第三者目線で「おーい、いつまでかかってんだよ。どれだって同じだよ 笑」なんて気軽にツッコんじゃいそうになるけれど、彼女らにとっては、ここまでシリアスな問題だったとは……と痛感した。「美」とは無縁の汚いオッサン(=おれ)ですら強い共感を引っ張り出されるような物凄いシーンだった。

デミ・ムーアが凄かったね。

これは同世代(50代以上)なら共感してもらえると思うんだけど、我々世代にとってデミ・ムーアは特別だった。誇張でもなんでもなく、まさしく「可愛くて、美人で、素敵」の象徴的存在だった。

そんなデミが、老いて「美」から見放されていく様を、焦りを、ある種「みっともなさ」を、等身大でさらけ出している。その様子を、高詳細なマクロ接写撮影や意地悪な照明、そして露悪的なASMR録音で、決してありのままではなく、より汚く、よりグロく増幅されていた。

若い頃から美しくて可愛いデミを見てきた我々も本当に辛い気持ちになったけど、本人は比べ物にならない辛い仕事だっただろうなと想像した。相当な覚悟で挑んだんだろうな。書いてて涙が出てきた。

でも「デミほどの女優がそこまでやる必要があったか?」と言われれば、鑑賞したうえでハッキリ「あった」と思える。この執拗なまでの描写があるからこそ、若くてピチピチのクアちゃん(マーガレット・クアリー)のある種暴力的な美しさが際立つし、主人公の背景(今は老いて落ちぶれた元スター女優)を考えるとデミ・ムーアが最適任だった。熟練の演技力と自分の全てをさらけ出す覚悟――これが完全に両立しないと成り立たない。多くの人が言うように、アカデミー主演女優賞はデミ・ムーアでよかったんじゃないかと感じた。
(もちろん「アノーラ」のマイキー・マディソンも相当良かったけれど、本作のデミははっきり次元(レベルではなく)が違うと思う)

さて、デミ語りで長くなった。最後にもう一つだけ。

マーガレット・クアリーが完璧だったね。彼女はもともと非の打ちどころのない”美人若手女優”の最高峰なわけだけど、この作品中では(作品の性質上)さらに完全体に作りこまれていた。美しい顔、ツルツルの肌、完璧なスタイル、思いのままに動かせる健康な身体、自信満々の微笑み。

デミ・ムーアが最適任だったのと同じくらいに、クアちゃんも現在進行形の「可愛くて、美人で、素敵」の象徴として最適任だったと思う。まさしく90年代のデミ・ムーアだった。

同時に、「君もそのうちこっち側にくるんだからな!」という意地悪な目線も芽生えてきた。

30年後、マーガレット・クアリー主演で本作のリメイクなんてやったら面白いね。この老いぼれた目でちゃんと見届けてやるぞ。生きていれば。

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