遺書(ブログ)

星を継ぐもの

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誰にでも相性の悪い下着というものが存在する。
「そんなものはない」という人も、知らないだけできっと存在している。

ローテーションのなかで一際輝く死兆星
5日のパンツローテでこれを穿く日は、ある程度のアンラッキーは覚悟しなくてはならない。

ちなみにパンツを「はく」のは「穿く」。靴を「はく」のが「履く」なので、ごっちゃになっている人は是非覚えて帰ってほしい。

話がそれた。

今のおれのパンツローテでは、それにあたるのが深緑の地にヒョウの柄をあしらった(ヒョウの柄ではなくて、ヒョウそのものをモチーフとした柄)ヒョウ柄トランクスだ。

いつもはスムーズに行くはずの現場で、なぜか予期せぬトラブルが起こったり。
いつもならば30分でフィニッシュする原稿と半日も格闘していたり。
平らな歩道で転んだり。エレベータのボタンで突き指したり。

なんとなく集中力を欠いている。
そういうのは、大体このパンツのせいだ。

そんな不吉なパンツ、穿かなきゃいいのでは?

その考え方は、世の中の法則に反している。

ラッキーとアンラッキーは光と影であり、太陽と闇であり、表と裏だ。
ラッキーがあるからアンラッキーがあり、アンラッキーがあるからこそラッキーが存在するのだ。信仰とか崇拝といった類の話ではない。これは論理だ。

「凶」があるからこそ、我々は「吉」や「大吉」で喜べる。

だからおれは、この不吉なヒョウ柄の存在をただ忌み嫌うのではなく、冷静にこう考えることにしている。

これをあえて5日に1度「必ず」穿くことで、その他の4日間を平穏無事に過ごせるのだ、と。
結果的にヒョウ柄は、その日以外の4日間を護ってくれているのだ、と。

おれは神様も星占いも手相も血液型も幽霊もUFOもツチノコも信じない。

しかしこの“幸福相対性理論”は、ヒョウ柄トランクスに憑依してこの数年間おれを護り続けてくれた。

この“事実”は、神様や星占いや手相や血液型や幽霊やUFOやツチノコなんかよりもずっと、おれにとってのリアルなのである。

そんな、疫病神であり守護神でもある「ヒョウ柄トランクス」が、
昨夜その生涯を閉じた。

2019年1月27日午後11時頃のことだった。

風呂から出てこのパンツを穿こうと足を通した際、足の親指に尻布(しりぬの)を引っ掛けてしまった。
このパンツがローテを守り続けて3年が経つ。その尻布は極限まですり減り、限界が来ていたのだろう。
足の指が掛かった瞬間にビッと音がし、驚く間もなく大きくタテに裂けてしまった。

これをこのまま穿いたとて、尻の半分も隠せやしない。
もう金輪際パンツとしての役割を果たすことはできないことは明らかである。

おれはその破れたパンツを目線の高さで両手で広げ、親愛の念を込めて語りかけていた。

今まで
ありがとな。

3年か。長かったよな。
お前は3年もの長い間、それこそこうしてボロボロになるまで、こんなおれを守り続けてくれた。
そんなお前に、おれは一度たりとも感謝することなく、下手すれば疫病神あつかいで敵視すらしてきた。

いまさら遅いかも知れないけど、

ありがとう。そしてごめんな。

「安らかに眠ってほしい……」。そんな感じで気分が盛り上がってきたとき、脱衣所の鏡に映し出された“パンツを広げて涙ぐむ全裸のオッサン”が視界に入って現実に呼び戻された。

おお、危なかった。
おれはなんて馬鹿馬鹿しいゾーンに入りこもうとしていたんだ。

何とか土俵際で持ちこたえたことに胸をなでおろしながら、冷静に明日穿く予定だったダークグレーのボクサーパンツを中3日のスライド登板。
明けて今日、ローテが変わってしまったことに一抹の不安を抱えながら外出して用事を済ませた。

結果としては、良かったのか悪かったのか、幸か不幸か、想定内か予定外か、事態はなにも変わらなかった。

おれは今日、

疲れてもいないのに、2度も平らな歩道で転んだ。
エレベータのボタンで突き指した。
Suicaのチャージが切れていて、改札で後ろの人に舌打ちされた。
そして今、いつもならば30分でフィニッシュする原稿と半日格闘している。

おれはズボンの中のグレーのボクサーパンツを覗きながらつぶやいた。

どうやら、星はスムーズに引き継がれたみたいだな。

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