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この夏の星を見る

更新日:

ジャンル 青春 / ドラマ
製作国 日本
製作年 2025
公開年月日 2025/7/4
上映時間 126分
鑑賞 #キネカ大森 

「【奪われた世代】…と言われた世代」が報われた場面の可視化

TOMOOのファンなので、彼女が主題歌を担当する『君は放課後インソムニア』目当てで名画座2本立て上映を観てきた。

正直ね、一本目の『君ソム』を観ている2時間はかなりキツかった。いや、Filmarksの評点を見るにきっといい映画なんだと思うんだけど、高卒35年も過ぎた身としては、キャピキャピのテーマパークに一人取り残されたような居たたまれなさを感じちゃって。

オッサン禁制“の圧があまりにすごくて、1本目で帰ろうかとさえ思った。だって天文部つながりの”二本目”だって、どうせ似たような守備範囲だろうから。

帰らなくてよかった。

ほんと、いい映画だったね、これ。『この夏の星を見る』。
異様に食らってしまったので、こちらについては感想を残しておこうと思った。

普段、人が1人以上死ぬ映画しか観ない悪趣味オジサンが、こんな青春もので中高生に共感して泣いてしまうなんて。おれにもピュアが残ってたんだね。嬉しくなった。

2020年、コロナ禍真っ只中。天文部の主人公(桜田ひより)は、中止の危機に面していた「スターキャッチコンテスト」を”オンライン上で開催する”いうアイデアを思いつく。

主人公のいる茨城と、参加を表明した東京と長崎(五島)、3つの地域の中高生たちの”特別な夏”が丁寧に描かれていた。

個人的によかったのはね、コロナ禍によって最も割を食ったと言われる世代なのに(うちの娘もそう)、そこまで「落胆」「気の毒」を強調しなかった点。いや、少しは描かれていたし、実際に相当辛い思いをしたんだと思うけど、作品はそこにあまり重点を置いていない。

むしろ、スーパーポジティブな主人公・亜紗(桜田)の牽引力で、未曽有の大禍すら「ハードルのひとつ」とばかりに、楽しんで立ち向かっていくひたむきな姿に、人生に疲れたおじさんは生命力を充填されるような感覚になった。充填中は終始涙目になってたね。

全国(といっても3か所だけど)を巻き込んだプロジェクトを成功させるために青春をつぎ込んでいく様子、仲間との友情、助け合い、練習。これらに集中している間は、泣き言なんて一切言わない。ただ目標へ向かって邁進するのみ。そこに映し出されていたのは「奪われた世代」なんかじゃない。普通に部活に青春を謳歌する中高生の姿だった。ただし

終始彼女らの顔を大きく覆い隠す”不織布マスク“を除いては。

そうなんだよ。スクリーンの中の本人たちにとっては、もはやコロナ禍なんて大して重要なことではないかのように話は進む。しかし観客にとっては、ずっとずっと「コロナ」が見えているの。このバランスが絶妙だった。

で、終盤の「ISSを観る」というイベント当日、夜空にはそれすら邪魔するような分厚い雲が広がっている……というシーン、これまで恨み言のひとつも漏らさなかった主人公・亜紗のあのセリフだ。

「ここで晴れてくれたら、この1年が良い年だったってギリギリ許せる気がする……!」(うろ覚え)

その瞬間、まるで映画のように雲が引いていくんである(映画なんだけど)。ここで、これまでジワジワと涙腺に溜め込まれた水がこぼれてしまった。

主人公たちは当然コロナを忘れてなんかいなかった。自分たちのかけがえのない時期を邪魔されて、心から「悔しい」と感じていた。そして何よりも、「気の毒な世代」と世間から言われることを「許せない」と感じていたんだと思う。

“「奪われた世代」……と言われた世代”が報われた場面の可視化

これ一点だけでもこの作品の価値は非常に高いと思った。おそらくあの時期、日本中で似たような場面があったんだと想像する。これを観ることで、さらに多くの同世代が報われたんじゃないかと感じて(娘も想像して)、さらに泣けた。

だからラスト、岡部たかし演じる先生のスピーチ、
「子供たちの時間は失われてなどいない」
は腹の底から響いたよね。

そうだよ、何が「奪われた」だ。何が「失われた」だ。おれたちの青春は奪われても失われてもいない。たしかに存在した。なんならお前らの世代では得られなかったものを得た。「得た世代」でもあるんだぞ。

50を超えたジジイが、思わず彼らサイドから憤りを感じさせられた。数十年ぶりに「心から中高生に共感できた」。すごい作品だったね。

配信が始まったら、新作料金を払ってでももう一度観ると思う。もう年末だし来年になるかな。
作品に対してこの言葉を使うのは多分初めてだけど、良いお年を。

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