「NHKスペシャル メジャーリーガー大谷翔平 自ら語る挑戦の1年」を見た。
今年、わがファイターズからメジャーに挑戦した大谷翔平の1年を振り返る充実した内容だったんだが、泣き所もないのにずっと泣いていた。
この感情はなんだろう。
昨年までわがファイターズで活躍していた選手が、遠くアメリカの地で元気にやっている様子に嬉しくなった。
上京した愛息子のビデオレターを見ている感覚なんだろう。いわば家族愛だ。
「翔平、なんかアッチで活躍してるみたいだな。たまには実家に帰ってこいよな」
たぶんそんなもん。
そう思っていた。
大谷翔平が独白の中でこの言葉を発するまでは。
チェンジアップを捨ててた中でもチェンジアップをホームランにできたから、今後捨てても問題ない
大谷翔平
しびれた。ゾワゾワっと背中から両腕に鳥肌が走った。
大谷は前回の対戦で4打数3三振を喫した超一流投手バーランダーを攻略しようとデータを紐解いた。すると左投手に対して、バーランダーはチェンジアップを4%しか投げていないことがわかったという。
大谷は思ったそうだ。「よし、チェンジアップは捨てよう」
ところがだ。バーランダーはその心を読んだとでも言うのだろうか。なんと初球にチェンジアップを投げ込んできたのだ。
エエエエエッ!?!?!?
と思う間もなく。大谷は咄嗟にタイミングを合わせてバットを振り切った。レフトスタンドに消えていくボール。歓声。
ホームランだ。
予想と違うボールを、大谷の身体(大谷自身ではなく)が勝手に対応してしまった。
これに対してのあの言葉だ。繰り返す。
「チェンジアップを捨ててた中でもチェンジアップをホームランにできたから、今後捨てても問題ない」
普通の選手の思考ならば「予測と違う球でしたが、身体がうまく反応できてラッキーでした」くらいだろう。実際、ヒーローインタビューで誰かがこんなようなことを言っていたのを聞いたこともある気がする。
ところが大谷は違う。
「あれこれ考えたけれど、なんか身体が反応できたので、今後もどうせまた反応できちゃうんでしょ」ってなところだろう。
もう天才の発想である。
違う。こんなのおれの息子じゃない。おれの息子のわけがない。おこがましいにも程がある。
おれはたしかに大谷翔平を愛しているが、家族や恋人、友人に対する愛情とは全く異種であることに気づいた。
尊敬……いや「憧れ」という言葉のほうがもっと近い。
そうか。あれだ。
番組中、止まらなかった涙の正体は、”憧れの人”を前にした感激の涙だ。
ジャニーズファンが本人を目の前にしたときの、どうにもならない激しさを含んだ感涙。
おれは、自分の半分しか生きていない青年に、憧れている…!
番組後半で、現地記者が「オオタニショウヘイは常識を覆す活躍をしている」「こんな選手はベーブ・ルース以来だ」と語っている。大谷は、日本でそうしたように、アメリカのファンにも”見たことのない”ほどの活躍を見せつけ、想像もつかないような偉業を成し遂げるに違いない。
同じくメジャーリーグで偉業を成し遂げたジャッキー・ロビンソンの伝記映画『42~世界を変えた男~』を思い出した。
遠い未来、大谷が引退したら、ぜひとも大谷翔平の挑戦をハリウッドで映画化してほしい。
タイトルは『SHO TIME~メジャーリーグ史上最高の選手~』くらいに風呂敷は広げておこう。
『42』がかなりよかったので、絶対にいい映画になるはずだ。ストーリーを想像するだけでちょっと泣きそうになる。
ただし、いいか。
主人公の大谷役は、背の低いジャニーズ俳優だけは使わないと約束してほしい。