遺書(ブログ)

快感。

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そこそこ混んでいる電車内。
その時、移動中のおれはいつもの門番ポジションで文庫本を読んでいた。

電車が目黒に到着すると、つり革につかまっていた1人の青年のすぐ前の席が空いた。見るからに真面目そうなその青年は「立っているのも邪魔だから」という体で、席に座ろうと席に尻を向けた。その時である。

門番と化したおれの前を、ツンと化粧臭を帯びた疾風が駆け抜けた。
推定年齢60歳前後。”電車内最強”と呼び声高い生物「オバサン」である。

オバサンはその後、カマイタチのごとく乗客を切り裂き、今にも座らんとするその青年とポツリと空いた例の席との小さな空間めがけて突進していったのだ。

「ハッ!」

空気イスのごとき体勢のまま自らの背後を振り返る青年。

キキッー!!!!
ドシャ!!!!!!

シーン………

時が
止まった。

青年の視線の先には、空いたイスから尻を踏み外し、まるでマンガみたいな大の字ポーズで席下に横たわるオバサンがいた。教科書どおりの「ハト豆」顔である。
そして呆気に取られた青年の額からは、数本の”ちびまる子ライン”。

おれはきっと、この光景を1ヶ月間は忘れないだろう。

空気イスの体勢で背後を振り向く青年。
イスから滑り落ちて、自らの肢体で大の字を描くオバハン。
ぐぐぐっと笑いをこらえる乗客たちの表情。

門番ポジションの角度から、すべてが奇跡のフレームイン。
実にシュールな光景だ。
今も写真のように脳裏に焼きついている。

薬師丸ひろ子ばりにつぶやく。

快感……。

しばらくは、思い出し笑いのネタになる。
この脳内画像は、「落ち込んだ時に見る」フォルダにロックを掛けて保存しておく。

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