勝利投手 日本ハム 杉浦 (1勝2敗15S)
敗戦投手 西武 平良 (1勝1敗11S)
同点(3-3)の9回裏。マウンドには39試合連続無失点というとてつもない日本記録を継続中の平良海馬。ランナーは一塁に置きつつも2アウト。「あと一人で引き分け」という場面で、ファイターズは高濱祐仁にチームの命運を託した。
平良はあっさり2球で追い込むも、3球目決め球をファールで逃げられ、4球目釣り球を見送られた後の5球目がど真ん中に行ってしまう。
この失投を高濱は見逃さなかった。
強く振り切った打球は、センターの頭を超えフェンスに直撃。1塁ランナーの淺間大基は、打った瞬間から走り込んでおり、そのまま全速力でホームイン。待ち構えていたネクストの近藤健介の胸に飛び込んでいく。一塁キャンバスでは両手を上げて喜ぶ高濱。
昨年育成落ちまで経験し、実力でここまで這い上がった苦労人。登場人物が全員高濱の母校である横浜高校出身というのもなかなか粋な演出。ファイターズ今季2度目のサヨナラ勝ちはあまりに劇的だった。
この瞬間、39試合連続無失点という無敵の日本記録を持つ平良の記録が途絶えた。それだけじゃなく、当然今季唯一となる「1敗」を平良の成績に点灯させた。
「チャンスで打てない」「エラーで失点」「投手がかわいそう」「もうダメだこのチーム……」なんて捨て台詞もSNSでは散見された。そんな感情は全て吹き飛ばして上書きしてしまうほどに(むしろその感情があったからこその?)最高の結末だった。
今日の試合はこの感動的なラストシーンに尽きる。
……と片付けてしまいそうだが、それまでの試合展開もなかなかスリリングで刺激的だったことは忘れないでおきたい。
初回からピリッとしないファイターズ先発の加藤貴之が、2回2アウトから愛斗のタイムリー二塁打で先制点を許すも、3回にはファイターズの反撃の狼煙が上がる。清水優心のソロホームランと王柏融のツーランで逆転に成功し2点リード。しかし4回、今度はライオンズにやり返される。イレギュラーによるタイムリー内野安打で点差を1点に詰められてしまった。
ファイターズはこの1点リードを守り切るべく、自慢のリリーフ陣を強いカードから切っていく。6回は河野竜生、7回は堀瑞輝、8回はB.ロドリゲス。
しかし8回表ロドリゲスのイニングで、野村佑希のエラーから1アウト1塁3塁のピンチを招き、ショートの野選で同点に追いつかれてしまった。なおも1アウト1塁3塁と崖っぷちの大ピンチ。
バッターの呉念庭は、気落ちしたロドリゲスの甘くなったツーシームを勝負強く強打。鋭く一二塁間を割ろうかというライナーを、前進守備の2塁渡邉諒が見事横っ飛びキャッチした。これにより3塁ランナーは釘付け。8回を1失点のみに食い止めた。今思えば、これがなければ結果は大きく変わっていただろうビッグプレーだった。
3-3の同点とされた後は、8回裏ギャレット、9回表杉浦稔大がそれぞれ無失点に抑え、冒頭のドラマチックな結末へと繋がるのである。
4-3と最小点差による勝負だったが、ライオンズ11安打、ファイターズ12安打という実は乱打戦。両チームともに崖っぷちの連続。ミスった方が負け。一瞬たりとも目が離せないデスゲーム。
結果も込みの感想だが、(お互い拙攻もありつつも)今季一二を争うほどに緊張と興奮が織り交ざったエンタメゲームだった。
全球ストレート勝負のなべギャレ対決
個人的に昨年ファイターズのベストシーンの一つに挙げているのが「2020なべギャレ対決」(このページの「渡邉諒の直球破壊」を参照)だ。160km超のストレートを誇るギャレットと、ストレートに滅法強く「直球破壊王子」の異名を持つ渡邉諒による、手に汗握るホコタテ対決である。
全球直球勝負。両者ともに一歩も譲る気はないといった張り詰めた空気、ギャレットと渡邉との睨み合いを捉えたカメラワークも秀逸で、個人的にはおそらく今後もパテレで何度も観てしまう名勝負だ(2020年8月8日)。
今日のど派手なサヨナラ劇の影に、この名勝負の正統的な続編「2021なべギャレ対決」があったことを忘れてはならない。
8回裏のマウンドに上がったギャレットは、先頭の近藤健介を内野ゴロに打ち取るも、王柏融に四球を与え、宿命のライバル渡邉諒と対峙する。
1アウトランナー1塁。3-3の同点。ファイターズは絶対に勝ち越したい。ライオンズは絶対に点はやれない。マウンドから見下ろすギャレット。厳しい表情で睨み返す渡邉。2020対決時にマスクをかぶっていた森友哉もいた。
この時点でもう名勝負のニオイがプンプンする。
渡邉は初球ストレートは見逃し、2~4球目はボール。3ボール1ストライクとしてからは、5~6球目を打ちにいくがミートし切れず、いずれも右方向へファール。さすがの球威である。
しかしフルカウントとした7球目、渡邉はついに高めに入ってきたストレートを完璧に捉えた。
火の出るような打球は三遊間を突き抜け、瞬く間にレフト前へ。悔しそうなギャレットに対して、一塁ベース上、クールな表情でコーチとタッチする渡邉。
痺れた。カウントの都合もあったが、我らが「直球破壊王子」に対して、結果的に全7球ストレート勝負というのもたまらんポイントだ。力と力の勝負。最終的にこのヒットは得点に結びつかなかったが、プロ野球の醍醐味は十分に堪能できた名場面だった。
ありがとうギャレット。ありがとう森。そして
ありがとう破壊王子!
至福の3分半。また嬉しいオカズができた。