中田翔の巨人入りが決定した。無償トレードだ。
この知らせによって、ファイターズファンは大きく動揺した。
中田翔は日本ハムファイターズにとって、10年にわたって四番に座り続けた”ファイターズの顔”だ。これはただ事ではない。
「残念だけど、どこに行っても応援するよ」という健気なファンもいる。「この処置は仕方ない。巨人で頑張れ」という大人なファンもいる。「問題の多い四番がいなくなった。チームにとっては万々歳」という辛辣なファンもきっといるだろう。
しかし、おれはそのどれでもない。大部分のファイターズファンと同じ。
「中田にとって最善だとか仕方ないとかチームにとっていいとか今はどうでもいい! ただただ悲しい!!」
だ。
朝起きたら中田翔は「巨人の中田翔」になっていた。
8月11日に発覚した暴力行為。それによる無期限出場停止。あまりの衝撃にやるせなく辛かったけど、数日を使ってなんとか呑み込んだ。おい中田! チームメイト、コーチ陣に土下座して、何か月、何年かかっても心を入れ替えてくれ。それまで待ってるぞ。
ファンとして、どんな困難も一緒に乗り越えていく覚悟を決めていたが、それすら甘かった。
中田のしたことは、報道されている内容以上に根深いものがあったのかもしれない。球団は入念な内部への聞き取りを経て「これ以上はチームに置いておけない」という結論に至った。
夕方には「巨人の中田」による移籍会見が行われた。巨人のユニホームを着た中田翔の画像もSNSで流れてきた。背番号は10。原辰徳監督に肩を抱かれながら、ぎこちない作り笑顔の中田。その後即座に練習に参加してフリー打撃で柵越え8本……。
いやいや気持ちが追いつかない。
中田は2008年に入団し、特に栗山監督が就任した2012年からは不動の四番打者として君臨してきた。2017年にFAの権利を取得しても、翌2018年に年棒ダウンで残留し「ミスターファイターズ」になることを誓ってくれた(と認識していた)。そして昨年、再び打点王にも返り咲いてくれた。
中田翔が“ファイターズの顔”になって10年。10年だ。
その長い期間を経て、球団にとって”顔”を超えて“ファイターズそのもの”のような存在になっていた。
好不調の波は激しかった。調子がいい時は芸術品のような美しいホームランを連発する。調子が悪ければ本当に打たない。中田の調子とともにチームも好不調を繰り返す。
それでも「それがファイターズだから」「中田が打てるようになれば勝てる」と見守り続けてきた。なぜなら中田翔はファイターズそのものだから。
「中田が打てば勝てる。打たなければ負ける」。そういうチームだった。打てない中田を叩いたところで、ファイターズ自体を叩くのと同じことだ。
だから、中田の暴力行為が発覚したとき、とんでもなく重大なことをしたとは思ったが、心のどこかで「そうはいってもファイターズは中田を切り離せない」と高をくくっていた。「いやいや、そもそもこんな問題児、受け手がいないでしょ」という心無い揶揄すら拠り所にしていた部分もあったかもしれない。
きつい処分は受けるべき。チームメイト、球団、ファンに土下座をしてでもやり直す義務がある。そして立ち直ってくれれば、ファイターズは受け入れる。結局中田翔がいるべき場所は、良くも悪くもファイターズしかない、と。
しかし、結論を言うと“あった”ということだ。「見つけた」というべきか。
報道によると、責任を感じ引退を考えていた中田を、栗山監督がトレード話で現役続行させるべく説得したそうだ。
ファイターズは中田を置いておけなくなったし、巨人も受け入れてくれた。そして、中田翔は野球を続けられる。ありがたいじゃないか。“三方良し”のWin-Win-Winだ。これがベストな結論だ。めでたしめでたし。
そんなところだろう。
わかる。大人だから。体はまったく受け付けないが、頭では理解できる。
“三方良し”の「三方」に「ファン」が含まれていないことがやや恨めしいが、その理由もなんとなくわかる。「ファン」を入れようとすれば、きっと中田は野球を続けられなかった。
だから、全体のバランスを考えればこれが最善だったのだと、理性で無理やり納得することにする。「中田ロス」はこれまでで最も強烈なので、すぐには無理だけど、徐々に慣らしていく。
今は全く想像つかないが、結局おれは「中田翔」というプロ野球選手が好きだから、きっとそのうち「あの時中田に野球を続けさせてくれてよかった」と思えるようになるだろうし、ひょっとしたら「巨人の中田」も素直に応援できるようになると思う。
だから少なくとも今月一杯は「俺たちから中田翔を奪った中田翔は絶対に許さん」くらいの恨み言は許してほしい。
ホントにお前はなんてことしてくれたんだ!!!!!!!
おれが好きだったあのホームランを、いつかまた見せてくれよ。
ユニホームは薄目でセルフモザイクかけるから。