ジャンル | サスペンス・ミステリー / ドラマ |
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製作国 | フランス |
製作年 | 2023 |
公開年月日 | 2024/2/23 |
上映時間 | 152分 |
鑑賞 | アマゾンプライムビデオ |
夫婦関係あるあるの成れの果て
地味だけどなかなかえぐられた。誤解を恐れずに言えば、気分が悪くなった。多分、こういう状況に心当たりがあるからなんだろうなあ。
鑑賞前に聞いていた通り「犯人は誰なのか」とか「トリックは何なのか」といったミステリー映画では一切なかった。法廷シーンは多いけれど、本質的に法廷ミステリーでもない。
「夫婦関係あるあるの成れの果て」……なんて言っちゃうと軽すぎるか。
どんな夫婦にだってある価値観の違いだとか、微妙な上下関係だとか、隠し事だとか、責任の所在だとか、そんな小さなことの複合で、すれ違いが生じてしまう。時には激しく衝突することもある。
大体の人はそれを「夫婦喧嘩」とかいう軽い言葉で受け流しながら、お互い呑み込みながら、妥協しながら惰性的に暮らしている。ここまでは「夫婦あるある」でしょ。
しかし、そんな誰にでもある「夫婦あるある」も、許容量を超えたり、悪条件が重なってしまうと、ある日突然プツッと切れてしまう。多くの夫婦の延長線上にあるその先を、丁寧に見せてくれた作品だった。
ああ、胃が痛い。
見ていて絶望的に思ったのは、この夫婦に実は本格的な悪意とか殺意なんてないんだよね。ただお互いが「自分は悪くない」「悪いのは相手」と信じこんでいるだけ。
「それがイカンのだよ」と言われればそれまでなんだけど、ラブラブな新婚夫婦ならいざ知らず、長年付き添ってきた夫婦ならば、多かれ少なかれあるでしょう。ウチはある。
本作の夫婦は、映画の主人公になるほど珍しい夫婦ではないと思った。
そこが一番怖いところだ。
自分たちだって一歩踏み外せばこうなる。トリガーはどこにでもある。そんなことを考えさせられた。
主人公は恐らく夫を殺してないよね。たぶん自殺だ。神の視点でしか見てないけど、夫が転落死した時は本当に悲しそうだったし、しばらくショックを受けていた。ある程度の愛はあったと思う。
そんな夫婦でも事件は起きてしまう。
夫婦喧嘩の音声と主人公の様子を見れば容易に想像できる通り、主人公は無自覚かつ日常的に夫を言葉や態度で追いつめていたんだと思う。感情的でキツい性格だった。でも悪いのは妻だけじゃない。夫の方も極めて依存的で他責的で、かつ心が弱かった。デキる妻から見るとポンコツ人間。なのに不満ばかり言う。きっとキツく言いたくもなっちゃうんだよ。それだけ。
これ書いていて思ったんだけど、こんな夫婦、本当に普通じゃない? そこら中にいそう。
っていうか、ハッキリ言ってこれ、ウチだ。
おれはもしかしたら、あんなことになってしまった主人公夫婦と、まだ(?)幸運なことにそうはなっていないウチとの決定的な違いを、もう一度観て研究しておくべきかもしれない。
いやあ、無理だわ。もう二度と観たくない。痛い。