ジャンル | サスペンス・ミステリー / ドラマ |
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製作国 | 日本 |
製作年 | 2023 |
公開年月日 | 2023/6/2 |
上映時間 | 126分 |
鑑賞 | Hulu |
永山瑛太の演技が神がかっている
二度目の火事(この時は「二度目」だと思った)を永山瑛太演じる教師が眺めているところで初めて、この作品が”ある出来事を複数の視点で描くことによって真実を浮き彫りにしていく”という、いわゆる「羅生門」スタイルだと気づいた。
最初のパートでは「なんか地味で胸糞悪くなりそうな映画だな」と感じていたが、ここから「おっ、これは面白そうじゃないの」とようやく身を乗り出した。
「羅生門」スタイルといえば、最近では「最後の決闘裁判」を思い出すけれど、あの作品では視点ごとに俳優たちの演技もセリフも実際に変えていた。極端にいえば、「視点ごとに違う人物を演じていた」(本家「羅生門」もそう)。
「同じ人物でも、ある人からはこんな醜悪な表情・態度に見えるし、同じ言葉でさえ違う言葉に変換されてしまう」ということが、とてもわかりやすかった。
しかし、この「怪物」では、視点によって表現を意図的に変えている個所は見つからなかった。少なくとも、視点をまたがって共通するシーンでは、同じセリフだったし同じ演技だった。
みんな「同じ人物」を演じていた。
まったく「同じ人物」なのに、視点を変えるとこんなに見え方が違うことに驚いた。
是枝監督の演出手腕によるところも大きいだろうが、俳優たちの技術、特に永山瑛太の演技が神がかっていたと思う。
母視点(安藤サクラ)では本当に気味の悪い先生に見えたし、息子視点ではいつも気にかけてくれる良い先生に見えた。自らの視点(永山瑛太)では、「職業・教師」の若者(ちょっと変人)の本音の部分をしっかり見せた。
まったく見え方が違うのに、いっさい矛盾のない同一人物だった。こういう人、リアルにいる。
この演技は「日本アカデミー賞最優秀賞は間違いないな」と思った。
――と調べたらノミネートさえしていなかった。
きっと、助演男優賞にノミネートされた5人は全員、この永山瑛太よりも優れた演技をしたってことなんだろう。了解。