今日、ファイターズ鍵谷陽平・藤岡貴裕とジャイアンツ吉川光夫・宇佐見真吾のトレードが発表された。
3年ほど前に、あれほど別れを嘆いた吉川が戻ってくるのは正直飛び上がりたくなるほど嬉しい。
しかし、それとは別次元で、6年半もファイターズのリリーフ陣を支えてくれた鍵谷と、昨年トレードでやってきたばかりの藤岡との別れはやっぱり辛い。
「嬉しい」マイナス「辛い」。
足し引きすると、それでも辛さのほうが勝ってしまう。
何度経験しても慣れることのない虚無感。
TwitterのTLを見ても、2012年黄金ファイターズの象徴・吉川光夫が還ってくるというのに、両手を上げて喜んでいる人ばかりではないようだ。
トレードは後から「良いトレードだった」と評価されるもので、トレードが発表されたその瞬間はどうしても悲しいもんだな、と実感する。
悲しくて、感情に任せて「トレードなんてなくなればいいのに」とさえ思ってしまう。
すっかり大人のおれは、そのたび自分に言い聞かせる。
トレードは出番が少なくなった選手に光を当てる合理的な制度だ。
相手球団が欲しがってるんだから、選手にとっては可能性が大きく広がる。
引退するわけじゃない、チームが移るだけだ。変わらず応援してやろうぜ。
自分に言い聞かせるたびに、必ずもうひとりのリトルホンダが大声を上げる。
わかってるよ!
そんなのはわかってるんだよ。トレードが選手にとってもチームにとっても良いことくらい。
宇佐見は数年前には”阿部慎之助の後継者”として期待された大型捕手だ。知ってるぞ。今やすっかり”ハムの顔”となった大田泰示のように、新たな環境を得て”北の阿部慎之助”が完成するかもしれない。
そして吉川だ。かつてのファイターズの英雄・吉川光夫の再生のドラマがファイターズを舞台に見られるかもしれない。ああ楽しみだ。
ジャイアンツに移籍する鍵谷も藤岡も、新しい持ち場を与えられて大車輪の活躍を遂げられるかもしれない。
そうなればチームも選手もファンもWIN-WIN-WINだ。トレードはこれを目論んだ大局的な戦略だ。
わかってる。
わかってるからリトルホンダよ。
今この瞬間だけは、そんなド正論をぶつけてくれるな。
おれは今この瞬間の”感情”の話をしている。
来週来月の話じゃない。
「別れがあれば出会いがある」という陳腐な言葉が示すとおり、いつだって順番は「別れ」が先だ。
だから今は、おれたちが愛した鍵谷陽平と藤岡貴裕との別れに浸らせてほしいのだ。
鍵谷といえば、なんと言っても2017年の”覚醒”だ。2017年のファイターズといえば、最終順位は5位となったドン底の時期。
打線は嘘みたいに静まり返り、投手陣が炎上を繰り返す中、リリーフ陣では孤軍奮闘で安定した投球を続けてくれていた。
当時「ストッパー増井浩俊がFAでいなくなるかもしれない」と言われていた頃。「来年の9回は鍵谷で大丈夫そうだな」と安心したのをハッキリと覚えている。
今でもあの”安定の鍵谷”は目に焼き付いているし、今日の今日まで彼の本領発揮を待ち望んでいた。
藤岡といえば、記憶に新しい昨年のまさに今頃。
攻守俊足強肩強打でならしたファイターズ期待の外野手・岡大海との1対1トレードでやってきた選手だ。
岡はファイターズでも人気の高い選手で、しばらくは「岡ロス」に悩まされたファンも多いだろう。おれもその一人だ。
「俺たちの岡の代わりに来たからには頑張ってほしい」。そう思った。
藤岡は長い間ロッテで期待されてきた選手で、大学時代は巨人・菅野、広島・野村とともに「大学ビッグ3」と呼ばれた投手だった。菅野・野村が着々とエースとして駆け上がっていく様を見ながら、「ロッテの藤岡もそうなっていくんだろうな……」と戦々恐々としていたものだ。
ロッテで覚醒する前にファイターズに来てくれてよかった。本来のポテンシャルを開花させる日を楽しみにしていた。
これも、今日の今日まで。
そんな2つのドラマは、本日をもって突然最終回を迎えた。
もちろん、選手を中心にしたドラマはまだ続く。ただし、見届けるのはもうおれたちじゃない。そこが寂しいのだ。
これがトレードだ。
トレードは正しい。プロ野球界に必要不可欠なものだ。仕方ない。
しかし、何度も経験しているが、この正しさに感情だけがなかなか追いつかない。
ただ、逆に言えば、追いつく時は必ず来る。
心配しなくてもロスは癒える。
“帰還”してくれた吉川光夫はもちろん、宇佐見真吾も歓迎する。試合では全力で彼らを応援する。約束する。彼らには新たなドラマを期待する。
だから、少なくとも後半戦が始まるまでの3日間は、ただただ鍵谷・藤岡との別れを惜しませてほしい。
僭越ながら、辛いけど、最後に2人に一言ずつ絞り出したい。
藤岡、菅野からエースを奪え!
鍵谷、巨人でもしっかり施錠しろよ!