昨日、義理の妹の家でたまたまついていた『スポーツ王は俺だ!!』をみんなで観た。
ファイターズファンのおれとしては、数ヶ月前から楽しみにしていた「リアル野球BAN」のコーナーがある番組である。これだけは見逃したくなかった。
その通り。
“たまたまついていた”と書いたが嘘だ。実は、手元のリモコンでおれが操作していた。
親戚とはいえ他人の家である。「他のチャンネルを観ようよ」という声が挙がらないかどうかは賭けだったが、幸運なことにそうはならなかった。
「リアル野球BAN」は、野球盤を現実の野球場で再現して、とんねるずの石橋チームと名だたる現役プロ野球選手が戦うバラエティ企画のことだ。
企画自体の面白さもさることながら、企画内での石橋の選手いじりや、普段の試合では真剣勝負を繰り広げている選手たちの楽しそうな姿が見られる名物コーナーとして知られている。
その中でもやはり“彼”は一際輝いていた。
親戚一同“彼”の一挙手一投足を観ながら大笑いしていた。
プロ野球に全く興味のない21歳の甥が、「何だコイツ、バカじゃねーのwww」と大喜びしていたのを見て、なんだか誇らしかった。
プロ野球ファンはただ一人”おれだけ”というアウェイのなかチャンネルを変えられなかったのは、“彼”のおかげ、と言ってもいいだろう。
杉谷拳士。
北海道日本ハムファイターズが誇る天才の名前である。
今シーズンは出場70試合、打率.231、ホームラン3本と、野球の成績はハッキリ言って振るわなかった。
残念ながら杉谷は「野球の天才」ではない。
もちろん、打撃はともかく、複数ポジションを守れるユーテリティプレイヤーとして、脚力のあるピンチランナーとして、立派な戦力になってくれた。
しかし杉谷の「天才」たる所以はそこじゃない。
突出した”バラエティ能力”とでも言えばいいのだろうか。発声、笑いのセンス、動き。どれをとっても面白い。
「野球選手にしては」ではない。凡百なお笑い芸人やテレビタレントと比べても際立っていると思う。
何がすごいかといえば、彼はこの能力を訓練して手に入れたわけではない点にある。
「生まれ持った才能」というと陳腐だが、この言葉しか思いつかない。これぞ「天才」ではないだろうか。
野球に興味があるないにかかわらず、見る人を惹きつける才能を、杉谷は生まれながらに持っている。
「杉谷をテレビに出せば必ず面白い」
その能力をテレビマンたちはよく知っていて、番組出演が解禁となるオフシーズンは引っ張りだこである。
もはや杉谷は”グラウンドだけで結果を残せばいい”という並の選手ではない。
実際、彼はテレビという戦場で、しっかり結果を残した。
一時、ツイッターでは「杉谷」と「杉谷選手」でダブルトレンド入りしていた。
忘れてはいけない。打率2割そこそこの選手の名前である。
おまけに「#杉谷拳士はプロ野球選手です」というハッシュタグも多く出回った。
いかに、杉谷が”プロ野球選手とは思えない”ほどの活躍をしていたかがわかる。
もはや、杉谷は「スギタニ」と呼ばれることはない。
期待されて結果を出す。
これを野球に例えれば「予告ホームラン」くらいすごいことだ。いや、野球に興味のない層を取り込めたことを考えると、ある意味ではトリプルスリーくらいスゴイと言えるかもしれない。
杉谷の年俸は2500万(推定)、一方、一つ年下の山田哲人の年俸は4億3000万。
もちろんこの格差に異存はない。
しかしプロ野球はどこまで行ってもエンターテイメントだと思っている。本当の目的は、試合に勝つことでも優勝することでもなく、ファンを楽しませることだ(勝利や優勝は「ファンを楽しませること」の要素の一つにすぎない)。
トリプルスリーで客を沸かせる選手もいれば、50本近くのホームランをかっ飛ばして客を楽しませる選手もいる。それと同じように、杉谷のようなエンターテイメント性も、もっと数字として評価されてもいいと思ったりもする。
杉谷拳士は、この「リアル野球BAN」でMVPを獲得した。
これにはお茶の間の誰もが納得したことだろう。
もちろん”ゲーム的に活躍した”ということなんだが、おれはもう少し大ゴトにとらえている。
バラエティ番組という別畑で、立派に”主役”として活躍した。専業のテレビタレントを向こうに回して、しっかり渡り合っていた。お茶の間の爆笑をかっさらっていた。
それが認められて与えられた大きな勲章だと思う。
杉谷の「リアル野球BAN」MVPは、メジャーで立派に活躍した大谷翔平の新人王と同じ重みがある。
これは少し言い過ぎた。