チーム一丸で掴んだ完封
今日は最高の試合だった。久しぶりの連勝。
全ファイターズファンが愛する伊藤大海の完封試合であることはもちろん、マウンドで奮闘する伊藤をチームメイトが守備で盛り立て「全員野球」で勝ち取った試合だ。
好守といえば、試合終了後に真っ先に思い浮かぶのは9回、先頭の牧原大成によるショートの頭を超えるかという打球を、”これ以外にない”というタイミングでジャンプ一番、スーパーキャッチで球場内を沸かせた中島卓也だ。110球を超え、さすがに疲れの見え始めた伊藤。その曲がらなくなった変化球を完璧に捉えられた。手応えは抜群だった牧原としては「ヒット1本消された!」という気持ちだろう。
この後はクリンナップが控えていただけに、これがなければ、完封どころか勝利すらも逃げていたかもしれない。
危うい場面は他にもあった。
6回1アウト。バッターはこの時も牧原。牧原は外角のストレートを完璧に捉え、打球は反対方向、三塁線へ痛烈な当たり。しかしサード野村佑希が正面で待っていた。続く柳田悠岐にもど真ん中のストレートをジャストミートされ、ライトへヒット性の当たり。しかしこれも、なぜか浅め(!?)に守っていたライト万波中正が正面でキャッチ。
牧原、柳田ともに完璧に捉えた当たりだっただけに、ホークスとしては「大事な場面でのヒットを2本消された」という気持ちになる。
ベンチの指示かどうかは知る由もないが、キレキレのポジショニング(使い方あってるか?)による好プレーで、ここでも守備で伊藤を助けた。
今日の伊藤大海のピッチングは当然素晴らしかったが、”伊藤大海の完封”はチーム一丸で成し遂げた、と言っても誰ひとりとして異存はないと思う。
ダルビッシュに見えた
序盤の伊藤は、うまい言葉が見つからないが、とにかくすごかった。常にストライク先行。今日は左打者の外側から入ってくるバックドアスライダーが有効だった。テンポよくポンポンと追い込み、決め球のスライダーとフォークで凡打、あるいは三振。観ているこちらも休む間もなく、ホークス打線を手玉に取っていく。
4回5回と続けてランナーを出す展開になったが、なぜか「今日の伊藤は点は絶対に取られない」という安心感があった。ランナーがいようがいまいが、ストレートも変化球も、ほとんどが捕手のミット通り。しかも配球はホークス打者陣の裏をかけていたようで、面白いようにバットは空を切った。
伊藤の背中を見ていると時々ダルビッシュを思い出すんだが、今日は本当にダルビッシュに見えた。
明かなピンチなのに「どうせ抑えちゃうんだろ?」というこの感覚は、ダルビッシュのときと同じだな……とちょっと懐かしくなった。
「打てなくない。打てる」
敵は日本最高峰のスーパーピッチャー千賀滉大。8回14奪三振も食らって1得点しかできなかったが、おそらくファイターズファンは誰も「もっと援護してやれよ」なんて思っちゃいない。今日の千賀はそれくらい凄まじかった。
ストレートは初回から164km(自己最速らしい)を記録し、決め球には140km台でえげつない角度で落ちる(打者からは”消える”)お化けフォークで、ファイターズ打線はバッタバッタと三振に斬って取られた。
160km台のストレートは前に飛ばせない。お化けフォークはわかっていても当たらない。
そんな千賀でも、調子が悪い時は制球を乱して自滅することも稀にあるんだが、今日の千賀にはその望みはほとんどなさそうだった。
スピードもキレも制球も完璧。そんなにしょっちゅうあるものじゃないのに、佐々木朗希を思い出して「(また完全を)やられてしまうのでは」と恐々とした。
そんな”完璧”な千賀から3回裏、宇佐見真吾が外角球をうまく流してレフト線へクリーンヒットを放った。これは直接的には得点に繋がらなかったが、間接的に千賀攻略の突破口となった。
4回裏、先頭の石井一成が、3回の宇佐見を手本にしたかのように、外角球を上手く流してレフト線へクリーンヒット。これが起点となって、万波中正の泥臭いセンター前タイムリーによって虎の子の1点をもぎとることになる。
千賀だけでなく山本由伸、佐々木朗希のようなスーパー投手を相手にしていると、ベンチでは誰ひとり口に出さなくとも「打てそうにないな……」という雰囲気が出てしまうものだと思う。野球に限らず、実社会でも同じような状況はある。
そんな状況で、
「いいや、打てなくない。どうにかすりゃ打てるはずだ」
と証明してみせた、3回の宇佐見の役割は大きかったように思う。
その昔、「落とせるわけがない」と敬遠してきたクライアントに、3回振られて4回目で取ってきたサトムラ先輩を思い出した。
さんざん苦労したくせに「余裕だよ」と誇らしげに鼻を膨らませていたサトムラさん、カッコよかったなあ。
例えがちょっと違うか。