金曜の夜に来て「25日までにお願いします」と依頼された仕事を、イブに慌ててやっている。
担当のニヤ顔が、メール文から思い浮かぶ。
「いつもギリですみませんねえ。週明けまでによろしくお願いします。メリークリスマス!」
メリークリスマスじゃねえよ!
まあ結論を言えばまったく問題ない。おれはちゃんとやる。悲しいかな、大きな予定はないので余裕だ。
ただ金曜の夜に依頼しておいて、「週明けまでにやっといてねえー」と当然のように言いのけてしまう担当者とは、本当の意味で信頼し合うことはないだろうとは思う。
もちろん事情があってのことだろう。年末はいろいろある。それならそれで、言い訳をしてほしい。
「こうこうこういうわけだから、大変申し訳ありませんが、週明けまでに終わらせていただけませんか?」
メールにこの1行さえ付け足してくれれば、器の小さいおれだって「ようし、助けちゃろか」と腕まくりもするさ。なあ、人間関係ってそういうことだろう。
・・・と、ここまで書いて、珍しく頭の中が暗黒面のフォースに覆われていくのに気づく。やばい。
まあ、何だかんだ言っても結局やるのだ。
できれば気持ちよく、いい仕事がしたい。
そうだ。こんなクサクサした思いを断ち切るには、環境を変えることだ。ノートPCを担いでファミレスに移動することにした。
行きつけのガストはクリスマスムードだった。
バイトさんの手作り感満載の飾り付けに、BGMには山下達郎やマライヤ、WHAM!というベタ曲オンパレード。
昼間だったが、クリスマスのせいかほぼ満席状態。
いつもは4人席に1人で座るのだが、今日は端っこの2人席でノートPCを開く。
まわりを見渡すと、ご近所の奥さんの悪口でもりあがるおばちゃんグループ、少し遅い昼食後にスイーツを食べているファミリー、これからどこかに向かうんだろうか、何組かのカップルで溢れかえっていた。
なかでも、正面のカップルが醸し出す不穏な空気に目を囚われた。
男女とも20歳前後といったところか。
男性は真面目そうな青年なんだが、女性は少しケバい。釣り合っては、いない。
「あいつがさあ、こんな事言ってたんだよね」「聞いてる?」「そう思わない?」
男性の方が一方的に話しかけているのに、女性は一切返事をしない、ように見える。
何だこのカップルは。
面白い。これは妄想のオカズになる。
仕事などそっちのけで彼らを観察してしまうおれ。(妄想の内容)
やがて、一切反応もない彼女にお手上げ状態で、男性は女性の背後にあるおれの視線に気づく。
やべっ!
とおれは当然視線をごまかそうとするが、彼はそれを見てニコッと微笑んだ。
……どういうわけか、優しい気持ちに包まれた。
メリークリスマス。仕事頑張るよ。