ジャンル | アニメーション / 青春 / ドラマ |
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製作国 | 日本 |
製作年 | 2024 |
公開年月日 | 2024/6/28 |
上映時間 | 58分 |
鑑賞 | アマゾンプライムビデオ |
「描くもんじゃないよ」
あれだろ。実写で撮れる題材をわざわざアニメにして、そちら側の客層をガッポリ取り入れようとする「秒速ナンタラかんたら」的な作品?
……なんていう偏見に本気で囚われて、ハナから「自分向けじゃない」と敬遠しちゃうタイプの嫌なジジイである。
興行的にそういう側面もなくはないと思ってはいるが(アニメだからここまでヒットした)、そんなちっぽけな偏見など軽く吹き飛ぶほどの凄い作品だった。
(実は「何とか5センチメートル」も好き)
まず個人的に、クリエイターが命を削りながら「表現」に没入していく系の熱い話ってホント弱いんだよ。
周囲から「絵が上手いね」「凄い才能」なんておだてられて天狗になっていた小学生の藤野(声:河合優実)が、謎の天才・京本(声:吉田美月喜)に鼻っ柱をポキッと折られた時、絶望に落ち込むんじゃなくて猛烈に絵の練習を始める展開になったことで一気に引き込まれた。
周囲に呆れられながら、半ば病的に絵を描き続ける藤野の背中に、なんだか涙が出てきちゃったよ。「とにかくひたすら描け!」とばかりに積み上がるマルマンのスケッチブック。熱いとも冷たいともどっちにもとれる虚ろな瞳。この時点で「こういう奴が天才なんだ」と確信した。
そして例の、卒業証書を届ける場面。
観た人は多分全員わかってくれると思うので描写は省くが、自分を絶望に叩き落した天才もまた、自分のことを天才だと思ってくれていたことが判明した。その時の「歓喜の帰り道」。
これまでどんなに創意工夫を凝らして漫画を描いたところで、クラスメイトは「絵の上手さ」でしか評価できない。心無い友達からは「あれ? 京本のマンガと比べると、藤野って大したことないじゃん」なんて言われる始末。「やーめた」って放り投げたくなる。
でも、自分が認めた天才は正しく評価してくれていた。クリエイターにとって、これに勝る喜びはない。大袈裟に言えば命みたいなもんだ。初めて命を吹き込まれて、経験したことのないほどの喜びを爆発させて歩く帰り道は、あの変なスキップになってしまう気持ちもよくわかる。
印象に残ったのは「読むだけにしたほうがいいよね。描くもんじゃないよ」という藤野のセリフだった。
製作側は、これを一番伝えたかったんじゃないかと思うほどの悲痛な言葉だった。クリエイターは、どんなに一生懸命作ったところで正しく評価されるとは限らないし、賛辞をいくら浴びたとしても批判の声量の方が圧倒的に大きく響く。そして最悪なことには、京アニ事件のような危険にもさらされる。絶対に「読むだけ」のほうが楽しい。
それでも描かないではいられない。誰にどう思われようが、自分が「良い」と思う方向へ作品を磨き続けるしかない。
「描くもんじゃないよ」は単なるボヤキじゃなくて、”描く側に回ってしまった人間”の覚悟の言葉であり、「今この作品を作っているのは、そういう連中の集まりなんだ」と世間に向けて高らかに発信している気がした。
「観る側」という安心・安全な立場としては、クリエイターたちが命を削って作り上げた作品に、今後より一層の敬意を持って向き合いたいと襟を正せる機会になった。
そして、今後はもっと「背景」をよく見ようと思った。グッジョブ。
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