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インフル検査

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昨日から体がだるく関節が痛い。喉も痛むし心なしか熱っぽい。これはもしや……!

インフルか!?

信じたくはないが、ちょうど娘が昨日から高熱を出しているからなおさら疑念は深まる。
娘の中学校ではインフルが流行っていて、隣のクラスでは学級閉鎖に至っているという。

おれの体調不良はともかくとして、今日は娘には学校を休ませ、検査のため病院に連れて行くことにした。

おれはこれまでインフルにかかったことがない。
ただし幼少時から扁桃腺の持病があるため、高熱はよく出す子だった。
それだけに高熱の辛さはよく知っている。

普段は父の無視をする生意気な娘でも、たったいま高熱で苦しんでいるかと思うといたたまれない気持ちになる。

布団の中でうずくまっている娘に「どうだ、辛いか?」と聞くと、「…………」とスルーされる。

いつもと同じようだが、いつもと違う。
普段なら、こういう場合は「うん」「別に」だ。

父親とのコミュニケーションを最小限に抑えたい娘は、必ず小さな返事くらいはする。
露骨な無視をすれば、自分の父は、さらにしつこく質問してくることを知っているからだ。

そうか、本当に辛いんだな。

父は理解した。これは確実にインフルだ。
高熱で辛い時くらいは、イヤな気持ちを積み重ねてもらいたくない。
おれは父親として、娘にとっての”ウザい父親”を遠ざけてやらねばならない義務がある。

だから病院に車で連れて行く際も、なるべく話しかけずに5分間の無言ドライブに徹した。

病院の待合室は、インフルが大流行しているこの時期だけに、小さな子供連れのママで一杯だった。棚にはアンパンマンのぬいぐるみやウルトラマンの塩ビ人形が所狭しと並び、テレビでは「くまのプーさん」のアニメが流れている。

やって来たのは小児科専門の「こどもクリニック」だった。
めったに体調を崩さない娘が唯一診察券を持っていたのが、前回小学生の頃に行ったきりのこの病院のものだったのだ。

娘も中学生だけに、この雰囲気にはちょっと居心地が悪そうだった。

実はおれも検査をしてもらおうと保険証をポケットに忍ばせていたんだが、さすがにやめておいた。
娘の結果が出たら、改めて”おとなクリニック”に行こう。そう決めた。

インフル検査か……。

あれは本当にイヤなもんだ。
おれも数年前、謎の高熱を出した際に、小さな娘とともに実施したことがある。

細い棒のようなものを鼻から挿入し、奥の方でかき回される。あれが泣きそうになるほど痛い。「そんなに痛くない」という人もいるようだが、おれは「めっちゃ痛い」派だ。できることなら二度とやりたくない。

当時の娘(小学生低学年くらいだったか)も実施後は痛くて泣いていて、それを見て、おれももう一度泣きそうになったことを覚えている。
その記憶が残っているのか、今、検査を待つ娘もかなり浮かない顔をしていた。

診察室から呼ばれた時いっさい父親の方を向かなかったが、イヤな気持ちは背中からにじみ出ていた。

がんばれよ。泣くなよ。

これからあの拷問へ向かう娘へ無言のエールを贈る。

明日、おれも続くからな。

診察室の前で待っている間は、自分も鼻から棒を挿入されている気持ちで見守った。
擦りガラスの向こうで娘のシルエットが小刻みに動くたび、「今なのか?今痛い思いをしているのか?」と身構え、鼻の奥がツンとする。

約10分後に診察室のドアが開き、娘がひと仕事を終えた顔で出てきた時は「よく耐えたな。よく泣かなかったな」と抱きしめてやりたい気持ちになった。

抱きしめてやりたい気持ちを抑えて、「結果は?」と聞く。

すると娘は声を出さず、腕で「×」を作る。
そしてボソリと言う。「陰性」。

やはりか。しかし結果などどうでもいい。辛い「インフル検査」という拷問を耐えて、「インフルだった」という結果を得られた”結果”が重要なのだ。
インフルだと確定すれば一発で治る薬もあると聞く。高熱の辛さをいち早く消し去るような治療ができる。インフル検査、痛かったよな。辛かったよな。でもそのお陰で今日からは楽になるぞ…………って、

陰性!?

これを聞いた途端、熱が引き、喉の痛みも身体のダルさも、関節痛も消え去っていくのを感じた。

娘はインフルじゃない!
おれもインフルじゃない!

だからインフル検査を受けなくていい!

いろんな喜びがないまぜになり、つい興奮気味な声で娘に問いかけていた。
「そうか!よかったなあ!」
すると、娘は冷めた視線を虚空に向けながらポツリと言った。

「別に」

娘もいつもの娘に戻っていた。

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